認知症になっても銀行の定期預金をおろせるか

家事 2024.11.11

厚生労働省によると2023年の日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性が87.14歳で、前年と比較して少しずつ延びています。

認知症というのは、誰もが、将来なるかもしれないと不安を感じる病気ですね。特に80代になると、程度の差こそあれ認知症が発症している方の割合が、かなり多いと感じます。

自分の父親が認知症になってしまって、施設に入所するための費用を支払うため、父親の定期預金を解約することが必要になったとしましょう。

このとき長男が銀行に行って父親の定期預金を解約しようとしても、銀行は、本人ではないので解約を認めてくれません。

仕方がないので、長男が父親と一緒に銀行に行ったとしても、銀行の担当の人が父親の意思を確認しようとして、認知症のため意思疎通ができない状態だったとすると、定期預金の解約はできません。

こんな時どうしたらよいでしょうか。父親について、家庭裁判所に成年後見人選任の申立てをして、選任された成年後見人が父親の法定代理人として銀行預金を解約するという方法があります。

成年後見人とは、知的障害、精神障害、認知症などによって判断能力を欠いている方のために、家庭裁判所に成年後見人選任の申立てをして、選任された成年後見人等が本人の財産管理や身上保護を行う制度です。

この成年後見制度には判断能力の程度によって3つの段階があり、「成年後見」は判断能力を常に欠いている方を対象に、「保佐」は判断能力が著しく不十分な方を対象に、「補助」は判断能力が不十分な方を対象にしています。

それでは、成年後見制度の現状はどうなっているのでしょうか?令和5年度の司法統計によると次の数字が公表されています。

成年後見制度の利用者数は令和5年12月末時点、24万9484人で、前年比約1.8%の増加となっています

開始原因としては、認知症が最も多く、全体の約62.6パーセントを占め、次いで知的障害が約9%、統合失調症が約8.8%の順となっています。やはり認知症になる方がとても多いことが分かります。

主な申立ての動機としては預貯金等の解約、管理が最も多く全体の約31.1%、次が身上保護で約24.3%、介護保険契約が14.3%となっています。身上保護というのは、例えば施設に入所するための契約をすることです。

成年後見の家庭裁判所での審理期間については、申立から1か月以内に結論が出たものが全体の約38.5%、2か月以内が約71.6%、4か月以内が約93.7%となっていて、他の事件と比較すると迅速な対応になっていると感じます。

成年後見人等と本人の関係については、配偶者、親、子、兄弟姉妹等の親族が選任されたものが、全体の約18.1%となっています。親族以外が成年後見人等に選任されたものは全体の約81.9%を占めていて、その内訳は、多い順に、司法書士、弁護士、社会福祉士、市民後見人となっています。

成年後見制度の法律が制定された当時は、親族が成年後見人になるケースが多かったのですが、現在は第三者が成年後見人になるケースが4倍以上になっています。

その理由としては、成年後見人となることができる専門職の第三者の方が増えてきたこと、親族間で争いがあって、その内の一人を成年後見人に選任するのが適切でない場合があることが考えられます。

最後に、成年後見の申立人と本人との関係について、本人自身が申立てる場合が約22.2%、本人の子が申立てる場合が約20.0%、本人の兄弟姉妹が申立てる場合が11%となっています(そのほかの親族は省略します)。しかし最も多いのは、市区村長による申立で、全体の約23.6%を占めています。

成年後見制度が始まった当初は、市区村長による申立というのは全体のごく一部に過ぎませんでした。しかしこの割合が増えているということは、一人暮らしで、親族とも連絡を取っていない老人の方が増えていることを示しています。おそらく連絡を取っていないだけでなく、今さら成年後見の申立てをして欲しいと協力を頼めないような事情のある方が増えているのだと思います。

こう考えてくると自分も80代後半で認知症になって、市区町村による申立で成年後見が開始するのかと、将来について暗澹たる気持ちになります。これを避けるには親族と仲良くしておいた方が良いようです。

記事一覧